私亡き後、妻が自宅売却資金で有料老人ホームでの余生を楽しめるよう願っています。不足分は私の預貯金を充ててほしい。相続関連を2人の息子のうち長男に一任する予定ですが問題はありませんか。(80代、男性)

夫婦共に「もの忘れ」を自覚すると心配されていましたね。軽度認知障害の前段階から気付いて早期に治療を始めると、認知症の発症を遅らせる効果があります。その一方で、認知症に備えて財産管理対策を講じておきましょう。

相続当事者が認知症となる場合に懸念されるのは、自宅を売却できない▽遺産分割協議が滞る▽争族問題勃発――の三つの問題です。

まず、所有権者が認知症になると不動産売買などの契約行為が無効となり、有料老人ホームの入居に売却資金を充てる目算が狂います。成年後見制度を利用する方法はありますが、後見人となる弁護士ら専門家への報酬が亡くなるまで発生します。

相続人としての妻が認知症であっても遺産分割協議ができません。やはり成年後見制度を利用して、後見人が代理で協議を進めることになります。なお、遺産分割協議を回避するには遺言書で財産の分け方を示し、遺言執行者を指定する方法がありますが、妻が相続した自宅を売却するには成年後見制度を利用する必要があり、早めの備えが大切です。

ご夫婦で育てたお子様もその後の生活環境の違いで考え方はまるで異なるのが普通です。兄弟間で争族トラブルが起きる可能性は常にあり、長男だけに一任すれば心的負担を強いるだけになってしまいます。

そこで、家族信託を提案します。公正証書で契約すると安心です。自宅と現金(妻の必要額)の管理処分を長男に託します。残余財産の帰属権利者を指定し、その他の財産は遺言書で指定します。家族信託のご相談も生活の窓口で承っております。(生活の窓口)