父亡き後、家売り母の施設入居費に
父はがんの闘病中、母は認知症を患っています。父亡き後、母の面倒をみる代わりに私が自宅を相続し、母の施設入居時の費用に充てるために売却し、残額は私が自由に使える約束です。どう備えると良いですか。(50代、女性)
「遺言による信託」で具体的に指定
お父様はお母様が将来的に施設へ入居される可能性を見据え、自宅を売却して得た資金をお母様のために活用してほしいとお考えのようですね。あなたを信頼されている様子が伝わりますが、妹さんもいらっしゃるとのことです。
遺言により、自宅をあなたが相続することは可能です。ただし、あなたが所有した自宅を、その後売却することまで遺言では具体的に指示できません。お父様の意向や希望を「付言事項」として記載することはできますが、法的拘束力がなく、その実現は承継者であるあなたの判断に委ねられます。
お父様に安心していただくためには、遺言による信託設定が有効です。信託を活用することで、自宅の承継に加えて管理や処分方法まで指定できます。たとえば、あなたを受託者として処分権を与えて施設入居のため自宅を売却し、その費用に充てるというお父様の願いがかないます。
信託は、死亡時に効力が発生するため、生前に所有権が移転することはなく、お父様も心理的な抵抗を感じにくいでしょう。信託の設定は自筆証書遺言でも可能ですが、確実を期すのであれば公正証書遺言で作成しましょう。妹さんの遺留分を侵害しないように妹さんにも相当の財産を相続させましょう。
なお、ここでいう「遺言による信託」は、認知症対策としての家族信託とは別物です。また、銀行が提供する「遺言信託」は、遺言書の作成支援・保管・執行を行うサービスの名称であり、これとも異なります。ややこしいですが、混同されないように注意してください。<たのシニア生活彩り倶楽部アドバイザー(ファイナンシャルプランナー)長沼満美愛>