ちまたで信託という言葉を聞く機会が増えてきました。信託契約には2種類あります。財産管理をする受託者が信託業の免許を持つ金融機関などである場合は「商事信託」、家族など個人である場合は「民事信託」です。

 70歳を迎えるあたりで、認知症に備えた資産管理について検討すると良いでしょう。認知症を発症してからでは手遅れになってしまいます。物事を正しく判断できる元気なうちに備えておきましょう。

 全国銀行協会は、認知機能が低下した場合の預金引き出しについて、代理人の要請に応じる方針を発表しています。医療費や介護費の支払いなど、明確に預金者本人の利益を使途とした出金に関して、代理人が引き出せる方向で運用が進むと思われます。ただし、まだ日が浅いせいか、各銀行の運用にはばらつきがあり徹底されていない感は否めません。

 まず、預金者本人の利益を使途としている証明が必要になります。また、税金対策や資産運用を目的とした場合の代理引き出しは認められません。実際、銀行窓口で相談すると、認知症をサポートするタイプの商事信託をすすめられたとも聞きます。

 金融機関がすすめる信託商品はランニングコストがかかる点などに迷いが残り、他の方法を模索して相談をお受けすることが増えています。民事信託(家族信託)を利用する方法であれば、信頼できる家族などに財産を託して、管理・運用・処分を任せる手法で、法定後見制度のように裁判所を介することもないためストレスフリー、柔軟かつ理想的な財産管理を実現できます。

 家族信託を契約するタイミングについて時期尚早ではないかと悩む方がいます。早期に備えるデメリットは何一つありません。家族間では報酬が発生しないため、ランニングコストは不要です。初期コストは時期によって変わることがないため、思い立ったが吉日です。

 認知機能の低下が気になり始める頃は、デリケートな精神状態のため、家族会議ができないという悩みもお聞きします。信頼できる親族などを受託者に自らが選び、十分に納得した上で公正証書などを作成するために家族会議は必要です。設定内容によっては遺言書の代用になり、数世代先の財産承継まで決めることも可能です。

<生活の窓口相談員(ファイナンシャルプランナー)長沼満美愛>