認知症で介護施設に入居することにより自宅が空き家になるケースが多くみられます。介護施設での生活が長くなると、空き家は老朽化して倒壊のリスクが生じることもあるでしょう。また、空き巣などの犯罪の温床にもなりかねません。
空き家となった実家がゴミ屋敷と化し、自治体による指導の対象になっているため心情的に疲弊している方からご相談を受けました。近隣からのクレームに早期対応したい気持ちはあるものの、所有者である母親が認知症を発症しているため、建物の解体契約や自宅売却の手続きなどに親族が手を出せないのです。
所有者の意思で不動産の売却などができなくなった場合には、成年後見制度を利用する方法があります。家庭裁判所から選任された法定後見人が財産管理などを行い、売買契約も代理で行えます。ただし、制度利用者が亡くなるまで、法定後見人には、毎月報酬がかかることが負担となるため、成年後見制度を諦めて空き家が放置されてしまうケースが増えています。
相談に来られた方は、認知症の母親の一件で、無力感を覚え、我が子には同じ思いを味わわせたくないと言います。判断能力が低下する前に備えておきたいとのことでした。家族信託契約を利用して相談者本人の所有する自宅の管理・運用・処分を子に託したり、あらかじめ意思を持って子と任意後見契約を作成したりする方法があります。1人暮らしで身体機能が衰えた時に適切な支援を受けないと、誰しもがゴミ屋敷症候群になる可能性があるそうです。決して人ごとではないのです。
いつか、実家の空き家を相続する日が相談者に訪れますが、相続登記は実家のある市区町村を管轄する法務局に申請しなければならないことを知っておっくうになったようです。遠方に出向いてゴミの掃除をすることも手間なため、いっそのこと、相続放棄も考えたようです。相続放棄をしても、直ちに管理責任を免れるわけではありません。近隣被害が出た場合などには、ほかの相続人が管理を始めるまでの間、管理責任が残ります。相続人がいなくなった場合に相続財産管理人を選任すると費用がかかることも知っておきましょう。
<生活の窓口相談員(ファイナンシャルプランナー)長沼満美愛>