学生時代、長野県松本市で暮らしていたので、友人と上高地や美ケ原によく出かけた。
特に、夜中に車で出かけることが楽しみだった。平日の夜、上高地も美ケ原も音のない世界になる。満天の星を眺めながら静寂に包まれると、はなはだ神秘的な気分になる。
上高地は当時、まだ車で乗り入れることができた。1人暮らしの部屋から、思い立って車に乗り込み、1時間半ほどかけて上高地に入る。1時間ほど滞在し、明け方に帰ってくる。眠いのだが、夏場はなかなか爽快であった。
今でも毎夏、上高地には出かける。我が家の恒例行事である。国道158号を車で走り、途中の沢渡(さわんど)でバスに乗り換える。40分ほどで上高地に到着する。
河童橋を起点に、明神池まで散策したり、大正池まで歩いたりする。梓川の清流を眺めながら、毎年同じようなコースで自然に溶け込みながら歩く。緑に包まれた空気はもちろんうまい。穂高連峰の景色も素晴らしい。焼岳の威容にも見とれる。
早朝、気温は10度ほど。真夏の寒さを喜びながら、梓川のほとりを歩く。朝日があたる焼岳、湧き上がる雲、吐く息の白さ、何もかもがいとおしい。この情景を毎年確認する旅である。【さ】